【医師が解説】災害で発生するクラッシュ症候群とは何か?

2018年の夏は日本全国を、豪雨や台風、地震が襲いました。

犠牲になった方々のご冥福をお祈り申し上げます。災害の発生は人間の力で抑えることが出来ず、自然の力の脅威を感じさせられてしまいます。災害で発生する事柄を私たち一人一人が知り、未来に起こり得る災害に備えることも重要だと考えています。

今回は、地震や災害時に発生しやすい「クラッシュ症候群」について説明していきます。
※この情報は、2018年9月時点のものです。

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1.「クラッシュ症候群」とは何か?

「クラッシュ症候群(crush syndrome:圧挫症候群)」は、災害や交通事故を扱う医療の中でも極めて重要な病気の1つです。他の病態に比べ、死亡率が高いという特徴があります。

 

クラッシュという日本語から一般的に、「Crash:衝突する・砕ける」の意味を連想しがちですが、「Crush:潰れる・圧搾する」が正確な意味です。

2.「クラッシュ症候群」の歴史と災害

1909年イタリア・メッシーナ地震で発見され、1941年第2次世界大戦中のロンドン大空襲で倒壊家屋から救出された200名に症状が認められ、Bywatersにより「クラッシュ症候群」と名付けられました。1960年代のベトナム戦争、炭鉱事故、1970年代の内戦、列車事故などでも発生が確認されています。

次に、世界における地震と「クラッシュ症候群」について見ていきましょう。

 

世界における地震とクラッシュ症候群

 

死者数

クラッシュ症候群患者数

アルメニア地震(1988年)

25,000人

600人

イラン地震(1990年)

40,000人以上

不明

阪神淡路大震災(1995年)

5,000人

372人

トルコ・Marmara地震(1999年)

17,000人以上

639人

台湾・Chi-Chi地震(1999年)

2,405人

52人

パキスタン地震(2005年)

80,000人以上

118人

発生した地域や国、規模は異なっても、「クラッシュ症候群」が地震と関係が深いことが分かると思います。

 

3.「阪神淡路大震災」と「クラッシュ症候群」

日本で「クラッシュ症候群」が知られるようになったのは「阪神淡路大震災」です。「クラッシュ症候群」患者372人のうち50人が死亡しました。震災当時の医療従事者は、「クラッシュ症候群」という病態があることを知識としては持っていたものの、いざ現場で直面した際に対応に苦慮したと伝わっています。

下肢麻痺から脊髄損傷と診断され、脊髄損傷であれば緊急処置は必要ないだろうと判断され、経過観察となり、被災地内の医療機関で致死性不整脈や急性腎不全で死亡したという事案もあったようです。

 

「救命医療従事者や医療機関単体だけでは救えない命もあり、救助機関や関係各部署との連携が不可欠である」ことを私達は心に留めておく必要があるでしょう。

 

4.「クラッシュ症候群」が発生する仕組み?

 「クラッシュ症候群」が発生する仕組みを難しい医学用語を出来るだけ使わず分かりやすく、ご説明します。なお、実際の「災害医療や救命医療用語」とは異なる部分や表現についてはご了承下さい。

 

①倒壊などにより重量物が、足や腕、腰などの筋肉を圧迫し、動脈や静脈の流れが遮断される。

②遮断状態が続くと、圧迫部位の筋肉の細胞膜が破壊され、筋肉細胞の内容物が流出する(横紋筋融解)。

③筋肉に含まれる、カリウム、タンパク質(ミオグロビン)など内容物が流出するものの、圧迫のため血液が流れず局所に停滞したままとなる。

④救助により、重量物の圧迫が解除されると、停滞していた内容物が一気に全身を巡る。

⑤結果的に心室細動(心停止)などの致死性不整脈、急性腎不全などが起こり、死に至る。

 

5.「クラッシュ症候群」は、何が怖いのか?

「クラッシュ症候群」は、救助前ではなく、救助後に発症する特徴があります。救助直後は元気だった人が、突然亡くなってしまうこともあります。

 

救助直後は、心拍数や脈拍もほぼ正常、興奮状態であるため比較的意識もハッキリしていた人が救助されたことを喜んでいた後、一転して、死に直面するため、別名「Smiling Death(笑顔の死)」とも呼ばれています。

 

6.クラッシュ症候群の治療は難しい

「クラッシュ症候群」は重量物に挟まれている時からの対応が必要ですが、余震やさらなる倒壊など、2次災害が発生する恐れがあり、救助自体が難しいことに加え、救助部門(消防、警察、自衛隊、海上保安庁など)と救命医療部門(医師、看護師など)が綿密に連携した「がれきの下の医療」を行わなければなりません。

 

「クラッシュ症候群」の患者に対しては、1人当たり15L程度の輸液(点滴)が必要とされていますが、医療物資が限られた中では薬剤の準備にも困難が伴います。

 

さらに、筋肉細胞からの内容物が腎臓の機能を低下させるため、血液を浄化する「人工透析」治療が必要となる場合があります。「人工透析」治療自体に大量の水を必要としますが、被災地の医療機関は水道設備が破壊され、「人工透析」を行えない可能性があります。

 

被災地内の医療機関では対処できない時、被災地外の医療機関への搬送が必要ですが、道路の破壊など交通手段が限定され搬送が出来ないこともあります。

 

7.もし「クラッシュ症候群」に直面したら?

災害だけでなく、事故などでも「クラッシュ症候群」は発生するため、誰でも直面しうることです。

本来であれば救助は専門機関に任せるべきですが、大規模災害など状況によっては難しい場面もあるかもしれません。

最も大切なことは「自分自身の安全を確保すること」。救助者が要救助者になってしまうと、救助機関への連絡なども行えなくなる危険性があります。

 

「約2~3時間挟まれていると、クラッシュ症候群が発生しやすい」とされていますが、過去には1時間での発症も報告されているため、「経過時間よりも、重量物に挟まれていた」事実が重要でしょう。

 

「皮膚の赤みや水ぶくれ、知覚など感覚低下、黒褐色・赤褐色・ワイン色の尿(ポートワイン尿)」を呈するとされていますが、直後から認められるわけではありません。

 

筋肉が多い若い男性は重篤化しやすいとされています。全身の約30%の筋肉(骨格筋)が障害されると重症度が高まります。成人の場合筋肉の体積分布は、「上肢1本:15%(両上肢で30%)、下肢1本:30%(両下肢で60%)、頭部・体幹:10%」です。片脚だけ挟まっていた場合にも、「クラッシュ症候群」が発生する可能性はあると言えるでしょう。

 

「クラッシュ症候群」に対して、現場で一般の方が出来ることは極めて限定されています。

体温が低下する「低体温症」を少しでも防ぐために、毛布やタオル、レスキューシートなどを要救助者にかけてあげると良いでしょう。

 

8.正確な情報を伝えること

「クラッシュ症候群」は、災害や事故など誰もが直面し得る問題です。現場に直面した人が行える重要なことは、消防や警察、自衛隊、海上保安庁などが救助に来た際に、「重量物に挟まれていたこと(可能であれば、挟まれていた時間など)」を出来るだけ正確な情報として伝えることでしょう。

挟まれていた本人は、救助されたことに喜んでしまい、「大丈夫です!」と言ってしまい、結果的に対処が遅れてしまうことを避ける必要があるでしょう。

また、室内にある家具などが倒壊しない様に補強を行うことも非常に重要です。

執筆
医師:倉田大輔
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