目次
1.そもそも認知症とは?
認知症とは、さまざまな原因で脳細胞が死んでしまったり、機能が障害されたりすることで、「物忘れがひどい」「理解や判断ができなくなる」など、日常生活に支障が出てくる状態をいいます。
認知症には、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症などいくつかの種類がありますが、その中でも最も多いのは「アルツハイマー型認知症」といわれています。
1-1. 認知症の原因
認知症の原因はその種類により異なりますが、多くの原因は、脳にある種のたんぱく質が異常にたまってしまうことで、神経細胞が死んでしまい、脳の機能が低下することにあると考えられています。
1-2. 認知症の症状
認知症にはさまざまな症状があり、人によっても違いがあるといわれています。
大まかに、脳の細胞が壊れることによって、今までできていたことができなくなる「中核症状」と、その人のもともとの性格や置かれている環境によって見られる「周辺症状」に大別できます。
中核症状には、朝食を食べたことを忘れる、日にちや時間、場所がわからなくなる、服の着方がわからなくなる、スムーズに物事を進められないなどがあり、すべての認知症の患者さんにみられます
周辺症状は、うつ症状や不安、妄想、徘徊などがあり、人によって出現する場合も、出現しない場合もあります。
2.認知症のお薬が処方されるのはどんなとき?
現在、認知症の治療薬として、アリセプト(ドネペジル)、レミニール(ガランタミン)、リバスタッチ/イクセロンパッチ(リバスチグミン)、メマリー(メマンチン)の4種類の薬が認可されています。これらの薬は現時点では、アルツハイマー型認知症だけに適応があります。(アリセプトのみレビー小体型認知症にも適応あり)
そのため、認知症の薬の処方が検討されるのは、アルツハイマー型認知症と診断された場合に限ります。
アルツハイマー型認知症を根治する薬は現在のところありませんが、早期から認知症治療薬を服用することで症状の進行を遅らせることができ、ご本人らしく生活できる時間を長くすることが可能になります。
3.認知症治療薬の種類と特徴
認知症の治療薬のうちアリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチは「コリンエステラーゼ阻害薬」になります。一方、メマリーは「NMDA受容体拮抗薬」で他の3薬とは作用の仕方が異なります。
そのため、コリンエステラーゼ阻害薬同士は併用処方することはできませんが、メマリーは他の3薬のうち1つと併用することが可能です。
それぞれの薬の特徴についてご紹介します。
3-1. アリセプト(ドネペジル)
アリセプトは、1999年に発売となってから2011年に他の薬が発売となるまでは日本で唯一の認知症治療薬でした。
アルツハイマー型認知症の症状として、脳内の記憶や思考に関わる神経の伝達物質であるアセチルコリンが減少することがわかっています。神経細胞はシナプスを介して次の神経細胞に連絡をしていますが、アセチルコリンはシナプスの前の神経細胞の末端から放出され、シナプスの後の神経細胞の受容体に結合することによって情報の伝達が起こります。
アリセプトは放出された後のアセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼもしくはコリンエステラーゼ)の働きを阻害して、脳内のアセチルコリンの量を増やし、神経の働きを活発にします。
アリセプトは、コリンエステラーゼ阻害薬の中で唯一軽度から高度アルツハイマー型認知症まで適応があり、一貫して治療を行うことができます。さらに、認知症治療薬で唯一レビー小体型認知症にも適応があるのも特長です。
さらに、アリセプトの吸収は食事の影響を受けず、薬の作用時間が長いため、1日1回、患者さんの忘れにくい時間や、介護者の介護時間に合わせて服用が可能です。
また剤形も、錠剤、細粒の他、ドライシロップ、内服ゼリー、唾液や少量の水で直ぐ溶ける口腔内崩壊錠といろいろあり、患者さんの状態に合わせて選択できます。
3-2. レミニール(ガランタミン)
レミニールは、アリセプトと同様にアセチルコリンを分解する酵素の働きを阻害して、脳内のアセチルコリンの量を増やし、神経伝達をよくします。
さらに、アリセプトとは違い、前シナプスにあるアセチルコリン受容体という部位に作用して、アセチルコリンの放出を増やすように働き、神経の伝達を活発にします。また後シナプスにあるアセチルコリン受容体に働き、後シナプスのニューロンの働きを活発にすることで、アセチルコリンの働きを増強させます。
これら2つの作用により、レミニールは、記憶や判断力の低下といった症状の進行を遅らせる効果があります。
レミニールは、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に適応があります。
レミニールは、1日2回服用の薬です。薬の吸収が食事の影響を受けないとされています。
剤形は、錠剤、口腔内崩壊錠、内用液があり、患者さんの状態に合わせて選ぶことが可能です。
3-3. リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ(リバスチグミン)
リバスタッチパッチ、イクセロンパッチは販売している製薬会社により名称が異なりますが、共にリバスチグミンを有効成分とする貼り薬タイプの認知症の薬です。
リバスチグミンは、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼという酵素の作用を阻害し、脳内のアセチルコリンの量を増やして、神経伝達を活発にします。
アセチルコリンエステラーゼだけでなく、ブチリルコリンエステラーゼの作用も阻害するのが特徴です。ブチリルコリンエステラーゼは、脳内の神経細胞を支える役割を果たしているグリア細胞にあり、やはりアセチルコリンを分解する作用があるのです。
リバスタッチパッチ/イクセロンパッチは、軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症に適応があります。
認知症の薬の中で唯一の貼り薬で、薬の成分は皮膚から持続的に吸収されるため、内服薬に比べ血液中の濃度の変動が少なく、長時間一定に保つことができます。そのため、他のコリンエステラーゼ阻害薬に比べて、吐き気や食欲低下などの消化器系の副作用症状が少ないのが特長です。飲み薬で吐き気や食欲低下が出た人では試してみる価値があります。
また、副作用が発現した際は、貼付剤をはがせば、薬の吸収を止められるのもメリットのひとつです。
1日1回貼りかえればよいため、服薬を拒否する場合や嚥下が困難な場合にも使用できます。また、パッチに日付を記入できるので、貼った日を確認することができます。患者さん本人にまかせておくと、湿布と間違えて沢山貼ってしまい、中毒症状になってしまう事例もあるようですので、注意が必要です。
副作用としては、消化器症状の他、皮膚のかゆみ、発赤が確認できることがあります。
皮膚症状には、毎回同じところではなく、少しずつ場所をずらして貼るようにすると予防になります。
3-4. メマリー(メマンチン)
メマリーは、NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体拮抗薬で、他3薬とは異なる作用機序で認知症の症状の進行を抑える薬です。
脳内で学習や記憶に関する神経伝達物質にグルタミン酸があります。認知症では、異常タンパクがグルタミン酸の受容体を刺激して、グルタミン酸が過剰になり過ぎることで神経細胞を障害し、機能異常を起こすのではないかと考えられています。
そこで、メマリーは、NMDA受容体を遮断して、過剰なグルタミン酸の刺激を防ぎます。
メマリーのNMDA受容体への遮断作用は弱いため、正常な一過性のグルタミン刺激には影響しないのが特徴です。
メマリーは、中等度及び高度のアルツハイマー型認知症に適応があります。
他のコリンエステラーゼ阻害薬との併用が可能です。
1日1回の服用で、副作用を回避するために少量から開始し、徐々に増量していきます。
剤形としては、錠剤と口腔内崩壊錠が発売されています。
メマリー服用の際に起こしやすい副作用としてめまいがあり、転倒などに十分注意が必要です。
その他、便秘や食欲不振、血圧が上がる、日中うとうとしているなど、服用後の状態に十分注意して、気になる症状があれば、主治医に相談しましょう。
4.認知症治療薬服用の注意点・知っておくべきこと
認知症の治療薬を服用するに当たり、事前に知っておくと治療の継続に役立つことをご紹介します。
4-1. 服用後起きやすい副作用を患者及び家族で理解しておく
特に、アリセプトをはじめとするコリンエステラーゼ阻害薬の3薬は、服用初期に下痢や吐き気、嘔吐、食欲不振などの症状を起こしやすく、そのため、少量から投与を開始し、薬による反応に体を慣らしながら増量します。
これらの消化器系の副作用は、徐々に治まっていく場合が多いです。
しかし、事前に副作用について理解していないと、副作用の出現に驚き、勝手に服用をやめたり、服用を拒否されたりするなど治療の継続が難しくなる場合があります。
そのため、服用開始前に薬の特徴や副作用、その対処法について十分説明を聞き、理解した上で服用開始することが大切です。
また、副作用がみられた場合は、勝手に服用を中止せず、まず主治医に相談しましょう。
4-2. 症状が変わらないのも効果?
認知症治療薬を飲んでいても症状に何も変化が起こらない、薬が効いていないのではないか?という思いから治療の継続に疑念を覚えることもあります。
認知症治療薬は、認知症を治したり、病態の進行を止めたりするものではなく、認知症の症状の進行を抑える薬です。「症状に変化がない」は、症状の進行が抑えられている成果であり、薬を服用していなかったら、もっと症状がすすんでしまっていた可能性もあるのです。
勝手に服用を中止したりせず、主治医とよく相談し、判断することが大切です。
5.まとめ
現在のところ、認知症は、薬の服用で治るものではありませんが、症状の進行を抑えることが可能です。
認知症の症状は人それぞれであることから、認知症治療薬の効果が目に見えてわかる場合と効果が出ているのかどうかよくわからない場合もあります。
しかし、症状に変化が無い場合も薬の効果によるものである場合もあります。自己判断で薬の減量や服薬の中止などをせず、必ず主治医とよく相談し、判断することが大切です。
参考
日本認知症学会:http://dementia.umin.jp/g3.html
アリセプトインタビューフォーム
メマリーインタビューフォーム
レミニールインタビューフォーム
リバスタッチパッチインタビューフォーム