【医師が解説】怖い!エコノミークラス症候群<旅行者血栓症>を防ぐには!?

倉田 大輔

仕事や観光などで、飛行機や新幹線を使った旅をする機会も多いでしょう。長距離を移動する際には、「エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)」に注意していただく必要があります。日本旅行医学会 認定医である著者が、症状や原因、歴史、「エコノミークラスだけで起きるのか?」、予防法についてご説明していきます。

※この情報は、2018年1月時点のものです。


1.「エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)とは?」

「エコノミークラス症候群」は、正式名称として「旅行者血栓症」と呼ばれています。「旅行者血栓症」は、「足(下肢)の静脈に血栓(血の塊)が出来て、歩行などがきっかけでこの血栓が血流に乗って、肺の動脈を詰まらせてしまう病気です。1960年代以降に海外の航空機で発症が確認され、日本では、200012月に英国人女性がシドニーオリンピックからの帰国後に死亡したことが大きく報道され注目されました。

 

1-1. 旅行者血栓症の症状

初期には、はっきりした症状が無いことが多いです。歩き出して、少し時間が経った頃に「ふらつき、めまい、息苦しさ、胸痛、失神」などの症状が起こり、命に関わることもあります。飛行機を降りてから、10日~2週間程度経過して発症する事もあり、世界でも正確な発症数はハッキリしていません。普段から乗り物での移動時に「足のむくみや痛み、冷や汗」が出やすい方は、「旅行者血栓症」に注意が必要でしょう。

 

1-2. 旅行者血栓症の原因

「旅行者血栓症」は、高齢者や女性に多く発生しやすいとされています。さらに「身長が低い人」は、膝から下とシートの端が密着し、血流が悪くなりやすいので注意しましょう。さらに、「手術後あるいは外傷後(特に足)、悪性腫瘍、妊婦や産後1か月以内の女性、ホルモン治療中、下肢静脈瘤、50歳以上」の方に発生しやすいとされていますが、男女や年齢を問わず誰でも罹り得る病気です。

 

「飛行機だけで起きる??旅行者血栓症?

 

「旅行者血栓症」は、「飛行機で発生する」イメージが強いかもしれません。ところが実際には「1940年第2次世界大戦中のロンドン空襲で、狭い防空壕で長時間同じ姿勢を強いられて発症」したことが、世界で初めて報告されており、歴史の長い病気です。さらに、バスや自家用車での長距離移動や災害後の避難生活、オペラ鑑賞などでも起きることがあり、飛行機旅行だけで発生する訳ではありません。

2.「エコノミークラスだけで起きるのか??」

2-1. 座席配置数のマジック??

日本の医療機関が飛行機の「エコノミー、ビジネス、ファースト」の3クラスでの「旅行者血栓症」の発症を比較調査したところ、個人空間が狭い「エコノミークラス」で多くが発症したとの報告がありました。

 

ただし、「飛行機内のクラス別座席数の違い」について考える必要があります。

 

国際線で多くの航空会社で採用している「ボーイング777B-777通称:トリプルセブン>」では、全座席数247席のうち「ファーストクラス8席、ビジネスクラス77席、プレミアムエコノミークラス24席、エコノミークラス138席」という座席配置です(全日空の場合。実際には路線や時期などで配置は異なります)。「座席数(=旅行者数)」であり、「エコノミークラス」の乗客が全クラスの6割程度を占めているため、必然的に発症例が多いことに繋がっているとも考えられます。このため、ビジネスクラスやファーストクラスとエコノミークラスでの発症数を同列には扱えないとも言えます。

 

過去には、アメリカ合衆国大統領や副大統領が「米国政府専用機(いわゆる、エアフォースワン)」で「旅行者血栓症」を発症したことも報告されています。

 

必ずしも「エコノミークラス」のみで発症する訳ではないことから、現在は「エコノミークラス症候群」ではなく、正式には「旅行者血栓症」と呼ばれています。

 

「飛行距離が関係する?”旅行者血栓症”??

 

「旅行者血栓症」は、100万人に対して0.4人の発症率です。飛行距離が「1kmを超えると、4.8/100万人、5,000kmを超えると1.5/100万人、5,000km未満では、0.01/100万人」で、距離が長いと発生しやすい傾向があります。

 

航空機の飛行距離は、航空会社や路線、天候などの諸条件で変わるため、一定ではありません。そこで、「全日空マイレージチャート」を基に「1マイル=1852m1.852km)⇐航空機や船舶でのマイル」で代表的な都市に関して、飛行距離計算を行いました。

 

10,000kmを超える都市は、「ロンドン11,508km、パリ11,471km、ロサンゼルス10,108km」、5000kmを超える都市は「シドニー9006km、ムンバイ7780km、ホノルル7,095km、シンガポール6,134km、バンコク5,313km」という結果でした。

 

北米や欧米では「旅行者血栓症」のリスクが高い一方、東南アジア圏への旅行でも決して油断が出来る訳ではありません。

3.エコノミークラス症候群(旅行者血栓症)の予防策

3-1. 機内での適度な体操

足の血の巡りが悪くなるため、脚を組むことは避け、適度に足を動かすことが望ましいです。

「全日空」のホームページや機内誌「翼の王国」に掲載されている方法をご紹介します。

 

  • 足先を充分に伸ばしたり、曲げたりする。
  • 足全体をゆっくりと大きな円を描く様に回す。
  • ふくらはぎ全体をこぶしでトントンと軽く叩く
  • 足先を上下につま先立ちする
  • 足の指でじゃんけんのグーをつくる
  • 足の指でじゃんけんのパーをつくる

3-2. 水分の摂り方

飛行機内は湿度が低いため、脱水状態になりやすい環境です。こまめな水分摂取が重要です。

ただし、利尿作用がある「アルコールやカフェイン」は程ほどにしておきましょう。飲むなら「水やスポーツドリンク」がおススメ!

 

3-3. その他の予防法

 機内(や長距離移動)では、体への締めつけが少ない「洋服や下着」を着用すること、男性ではズボンのベルトを10cm程度緩めるのも良いでしょう。

さらにドラッグストアなどでも市販されている、「膝下までの弾性ストッキングフライトソックス」を履き、足の血流が滞ることを防ぐことも効果的です。

持病がある方や定期的に薬を飲んでいる方などが、海外旅行ふくめ長距離の移動をする際には、事前に主治医と相談することが良いでしょう。

 

4.エコノミークラス症候群を避けるための”座席”と”航空会社”の選び方

もし「エコノミークラス、1人」で旅行をする際、降機を急ぐ必要が無い場合、個人的には『最後尾から23列前の通路側』をおススメします。

 

「窓際座席」の場合、景色が見えやすい一方で、家族や友人でなく全くの他人が隣にいるため、気を遣って「トイレに気軽に行きにくい」方もおられるでしょう。特に女性などでは、「飛行中トイレに行かなくて済むように、水分摂取を控えてしまいやすい」傾向があるので注意が必要です。

 

「通路側座席」であれば、隣の人にあまり気を遣う必要性が少ない上に、窓側と比べて窮屈感も少なめです。

飛行機の座席は一般的に、前方から「ファーストクラス⇒ビジネスクラス⇒エコノミークラス」の順で配置されています。「エコノミークラス」でも、前方座席は「早く降機出来る」ことから、人気が高く混みやすい傾向があります。

 

後方座席は、「降機が遅くなること、エンジン音が大きい、揺れやすい」というデメリットがある一方で、「比較的混みにくく、トイレも使いやすい」というメリットがあります。

 

) 座席が空いていて、「シートベルトをせず、横になる旅行者」も見受けられます。

飛行中の突然の揺れなど安全面を考慮すると、シートベルトは常時着用しましょう。

 

現在、世界には約728社(定期運航)の航空会社があります。近年、機内サービスを省き、安い時であれば片道数千円で海外に行ける様な安価な運賃を提供し、成長しているのが、「LCCLow Cost Carrier:格安航空)」で、約170社が運航しています。マレーシアが本拠地の「エアアジア」、日本国内では、「バニラエア」、「ピーチアビエーション」、「ジェットスター・ジャパン」などが飛んでいます。「LCC」は短・中距離路線中心で、機内食や飲み物、毛布などが有料であることが多いです。

 

一方、全日空、日本航空、シンガポール航空、エールフランスなど各国を代表する航空会社は、短・中距離から長距離まで幅広く運航し、機内食や飲み物・機内エンターテイメントなどが無料で「FSC(Full Service Carrier)」と呼ばれています。

 

価格やサービスも異なり、「FSC」と「LCC」どちらが良いか、一概には言えません。

 

「旅行者血栓症」を過去に患った方や持病がある方が旅行をする際には、「FSC」の中でも全日空や日本航空など、日系航空会社の利用を個人的にはお勧めしたいです。

 

理由としては、

 

・飲み物が無料で提供され、気軽に水分補給しやすい点。

・他国航空会社に比べ、シートやシート間隔が比較的広めである点。

<体を動かしたり、トイレなどにも行きやすい>。

・国際線などで機内援助が必要な乗客が発生した場合に備えて、「全日空」では「Doctor on board」、「日本航空」では「DOCTOR登録制度」という、「飛行機に搭乗する医師の事前登録制度による迅速な救急処置」や「地上からの援助体制」に力を入れている点。

・搭乗する「日本人客室乗務員」の数も多く、微妙な体調不良や症状なども訴えやすい点。

 

5.おわりに

「エコノミークラス症候群(正式名称:旅行者血栓症)」について、ご説明をさせて頂きました。

「旅行者血栓症」は、誰でも発症する可能性があります。発症してしまうと、入院や手術が必要になる場合がありますので、まず『予防』することが重要です。

今回書かせて頂いたことを参考に、楽しく快適な旅をして頂きたいと思います。

 

取材・資料協力:全日本空輸株式会社 企画室、ANAホールディングス株式会社

イラスト:山田タクヒロ

 

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