目次
1.腸管出血性大腸菌とは?
私たちの腸の中には数多くの大腸菌が常在していますが、その多くは有害な働きをすることはありません。しかし、大腸菌には多くのタイプがあり、中には人の体内に入り込んで有害な働きをするものもあります。腸管出血性大腸菌はその最たる例であるといえます。
1-1. 腸管出血性大腸菌の特徴
大腸菌には様々なタイプのものがありますが、下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こすものを病原性大腸菌と呼び、その中でも人の体内でベロ毒素と呼ばれる毒素を産生するタイプのものを腸管出血性大腸菌と呼びます。
ベロ毒素が腸の中で産生されると、腸管の上皮細胞にダメージを与えて下痢を引き起こすだけでなく、下痢と共に出血もきたします。また、ベロ毒素は腸管から血液中にも吸収され、全身に行きわたります。その結果、急性腎不全を来たす溶血性尿毒症症候群や髄膜炎などの生命に関わる重篤な合併症を引き起こすのです。
腸管出血性大腸菌にはいくつかの血清型があり、最も有名なものO157と呼ばれるタイプのものですが、他にもO26、O103、O111などが挙げられます。
流行するのは一般的な食中毒が生じやすい梅雨の時期から夏の終わりにかけてですが、飲食店などでは冬に発生することもあり、一年を通して注意が必要です。
1-2. 腸管出血性大腸菌に感染すると…
腸管出血性大腸菌は、感染すると4~8日の潜伏期間を経て、激しい腹痛と頻回の水のような下痢が現れます。吐き気や嘔吐が生じることは少ないですが、激しい腹痛・下痢に対して発熱は軽度であり、多くは38度以下の微熱に止まります。
また、発症してから1~2日ほどで90%以上の人に血便が生じます。下痢や腹痛だけでは病院に行かなかった人も、血便が出た段階で受診するケースがほとんどです。しかし、中に血便もなく、軽度な腹痛や下痢のみのこともあります。
一般的には、発症から5~8日ほどで自然に治りますが、発症から二週間以内に5%程度の人が溶血性尿毒素症を発症するといわれています。溶血性尿毒素症を合併すると、赤血球が破壊されて貧血が生じ、血小板の減少や急性腎不全を生じます。急性腎不全は非常に重篤案状態となり、早期に人工透析を行わなければ死に至ることも稀ではありません。また、急性脳症や髄膜炎が引き起こされ、意識障害、けいれんなどの神経障害が現れることもあります。
このように、腸管出血性大腸菌感染症では、軽度な症状のみで感染すら気づかないケースもあれば、重篤な合併症を引き起こして不幸な転帰を辿るケースも多々あります。一般的には健康な成人よりも小児や高齢者、免疫力が低下する病気にかかっている人が重症化しやすい傾向にあります。
2.腸管出血性大腸菌はどこから感染するの?
腸管出血性大腸菌は自然界に存在する病原体であり、人の口から体内に入り込みます。体内に入り込んだ菌は腸の中まで生きた状態で届き、そこで毒素を産生して様々な症状を引き起こすのです。では、腸管出血性大腸菌はどのような経路で人の口に運ばれるのでしょうか?詳しく解説します。
2-1. 腸管出血性大腸菌はどこにいる?
腸管出血性大腸菌は本来、牛の腸や便の中に生息しています。私たちの食卓に上がる牛肉は牛を解体して食用に切り分けられたものですが、この工程の中で腸や便の中に潜んでいる腸管出血性大腸菌が肉の表面に付着した状態で出荷されると人に感染する可能性があります。
また、牛の便を使用したたい肥によって栽培された野菜や、腸管出血性大腸菌に汚染された井戸水、川の水から感染することもあります。
そして、腸管出血性大腸菌が付着したまな板や包丁などで調理したものが二次汚染され、それが感染の原因となることもあります。
腸管出血性大腸菌の始まりは牛の腸や便ですが、野菜や水、二次汚染された食べ物など感染源となる食品は非常に多いのです。
2-2. 腸管出血性大腸菌は接触感染する?
腸管出血性大腸菌は、食べ物からだけでなく接触感染を引き起こします。これは、感染者の便などに含まれた病原体を他の人が触って、無意識に口に手を触れた時に体内に取り込んでしまうことで感染が生じるものです。
特に、感染者が使用した後のトイレのレバーやドアノブ、電気スイッチなどには病原体が付着している可能性が高く、二次感染を広げることにつながります。
腸管出血性大腸菌は食品から感染することがほとんどですが、感染者から別の人へと二次感染、三次感染を引き起こす危険もあり、徹底した感染対策が必要となります。
3.腸管出血性大腸菌感染を防ぐには?
腸管出血性大腸菌は自然界に存在する菌であり、牛肉以外にも多くの食品が汚染されている可能性があります。そのため、腸管出血性大腸菌感染を予防するには様々な対策が必要となります。ここでは、その予防法について詳しく解説します。
3-1. 牛肉は表面にしっかりと火を通す!ひき肉料理には注意を。
腸管出血性大腸菌は牛が解体される工程で腸管や便に潜んでいるものが他の部位の表面に付着することで汚染されます。一方、腸管出血性大腸菌は75度の温度で一分以上加熱することによって死滅するとされています。
このため、牛肉は表面に付着した病原体を死滅させるために表面を75度で一分以上加熱すれば感染を予防することが可能です。理論的には、病原体は肉の内部に潜んでいるわけではないので豚肉や鶏肉のように中心部までしっかり加熱する必要はありません。
しかし、ハンバーグなどのひき肉料理は、中心部にも病原体が潜んでいる可能性があるため、中心部までしっかり加熱する必要があります。
3-2. 生野菜はしっかり洗う
生野菜にはたい肥に含まれる腸管出血性大腸菌が付着している可能性があります。このため、レタスやキャベツなどのサラダで生食する野菜を介して感染することがあります。これらの食材は加熱することはできないため、食前に流水で十分な時間洗い、付着した病原体を取り除くことを心がけましょう。
3-3. 料理器具には注意を!
腸管出血性大腸菌が付着した調理器具を介して、別の食品が汚染されることが多々あります。特に焼肉で生肉に触れる箸と食用の箸を共有すると、箸に付着した病原体が体内に取り込まれて感染する事例は非常に多いとされています。
まな板や包丁に付着した病原体も同様です。このため、肉類は最後に調理すること、使用した調理器具はすぐに洗浄して次の食材に使用すること、まな板シートを活用して肉とその他の食材が間接的に触れ合う機会を減らすこと、菜箸などの使い分けによって食品の二次汚染を防ぐことも重要です。
また、まな板などの汚染しやすい器具は洗浄後にアルコールやハイターで消毒するのもおススメです。
4.もし感染してしまったら…?
腸管出血性大腸菌は家庭内でどんなに適切な対策を行っていても、外食や一般的な接触感染で感染する機会は多々あります。ですから、万が一感染してしまった場合にどのような対象をすればよいのかを知っておきましょう。
4-1. 早めに病院を受診しましょう
腸管出血性大腸菌に感染すると、初期には腹痛と下痢が生じるのが一般的で、高熱が出ることはほとんどありません。このため、病院を受診せずにいつも通りの生活を送って他者へ感染を広げてしまうことも珍しくありません。
しかし、腸管出血性大腸菌感染症は非常に重篤な合併症を引き起こす可能性があり、特に溶血性尿毒素症は下痢などの初期症状が出現してからなるべく早めに抗生剤を服用すると、発症を抑えることができるとされています。ですから、いつもと違う下痢や腹痛を感じたら、無理をせずに病院を受診して、適切な検査・治療を受けるようにしましょう。
4-2. 二次感染を防ぎましょう
腸管出血性大腸菌は接触感染によって他者へ二次感染を引き起こすことがあります。症状がよくなっても、便の中に約二週間病原体が排出され続けます。このため、特に生活を共にしている家族は二次感染する可能性が高く、適切な感染予防対策が必要です。
感染者の便には病原体が大量に含まれているため、用便後は便座やレバー、ドアノブなどのアルコール消毒を行い、感染者を含めた周りの全ての人が手洗いと手指消毒を徹底しましょう。
5.まとめ
腸管出血性大腸菌は重篤な症状を引き起こし、死に至ることもある恐ろしい病原体です。多くは食品を介して感染しますが、人への接触感染も引き起こし、感染予防には様々な対策が必要です。
また、万が一感染したとしても、早期に適切な治療を開始することで重篤な合併症を予防することが可能です。そのためにも、腹痛や下痢が数回以上続く場合には我慢せずに早めに病運を受診しましょう。