1.熱中症が起こりやすい環境と症状
1-1. 熱中症とは?
熱中症とは、「高温環境下で起こりうる体の不調」の総称であり、熱けいれん、熱失神、熱疲労、熱射病などに分類されます。
暑さによって大量の汗をかき、水分や塩分を失い体液のバランスがくずれたり、体温調節機能が乱れたりすることによって体に熱がこもることで体温が上昇し、体の様々な部分に影響を及ぼします。めまい、立ちくらみなどの軽度な症状から、けいれんや意識消失などの重度の症状、場合によっては命の危険にもつながる病気です。
1-2. 誰もが熱中症になりうる
環境や体質、そのときの体調次第で、仕事中、屋外、屋内問わず、誰もが熱中症になりうる可能性があります。
熱中症のピークは、「梅雨明け前後の7月中旬〜8月上旬」になります。特に、ご高齢の方は、体力や体温調節機能の低下により屋内において発症することも多く、独居の方の場合は特に周囲の方にも気づかれないなどの危険があります。小さなお子さんも、体温調節機能が未熟で熱中症になりやすいとされています。
ところが、最近のニュースでも耳にするように、比較的若く体力がある方でも、屋外での活動中や、人が密集するような大規模イベント(ライブや花火大会など)などで熱中症は起こりえます。また、働き盛りの男性でも、工場など高温多湿となりうる室内での労働、炎天下での長時間労働中などによる熱中症の危険があります。
また、もともと暑さに弱い体質の方や、普段涼しいところにいて暑さになれていない方、体調が悪いのに無理をしている場合には熱中症になりやすいとされています。
1-3. 熱中症の3つの症状レベル(軽症・中等度・重症)
熱中症は、重症度に応じて3段階に分類されます。(日本救急医学会熱中症分類)
①軽症(Ⅰ度)
(意識障害を認めない)
・めまい
・大量の発汗
・欠伸(あくび)
・筋肉痛
・こむら返り
→≪通常は現場で対応可能≫
冷所での安静、体表冷却、口から水分と塩分(Na)の補給を行う。
②中等度(Ⅱ度)
・頭痛
・嘔吐
・倦怠感(だるさ)
・虚脱感(動く気力がない)
・集中力や判断力の低下
→≪医療機関での診察が必要≫
体温管理、安静、十分な水分と塩分(Na)の補給を行う。口からの摂取が難しい時は点滴を行う。
③重症(Ⅲ度)
次の3つのうち、いずれかの症状が起きている
◆中枢神経症状
意識障害、小脳症状、けいれん発作
◆肝・腎機能障害
入院経過観察、入院加療が必要な程度の肝または腎障害
◆血液凝固異常:DIC(血液が固まらず出血しやすくなる等)
他の臓器障害と合併して起こることが多い
→≪入院(場合によっては集中治療)が必要≫
体温管理(体表冷却に加え体内冷却、血管内冷却なども追加で行う)
呼吸・循環管理
DIC(血液凝固異常)の治療
2.熱中症すぐできる6つの予防・対策法
熱中症にならないためにできる予防・対策法をご紹介します。
2-1. 水分・塩分摂取をこまめに行う
喉が渇いていなくても水分と塩分をこまめに摂ることが重要です。水分だけでなく、塩分の摂取を合わせて行うことがポイントです。
スポーツドリンクは塩分、多くの電解質が含まれているため良いのですが、電解質だけではなく糖分も多く含まれているため、飲み過ぎには注意が必要です。そのため、電解質が多く含まれ、糖分が控えめとなっている「経口補水液(市販で購入可能)」をおすすめします。
経口補水液としては、次のような商品があります。
・OS-1(オーエスワン) / 大塚製薬
・明治アクアサポート / 明治
・Newからだ浸透補水液 / 武田薬品工業
・経口補水液 / 日本薬剤
・アクアソリタ / 味の素
・アクアライトORS / 和光堂
よくご高齢の方で、飲み物はしっかり飲んでいるという方がいますが、よく伺ってみると、お水やお茶などで、塩分の摂取をされていない方もいらっしゃいます。是非とも、熱中症の危険が考えられる場合には、経口補水液などを利用し、水分・塩分を合わせて摂取するようにしましょう。
2-2. 我慢せずに、冷房や扇風機を使用する
人によっては、冷房や扇風機を使用することによって、体が冷えたり、乾燥したりするので嫌う方、又、電気代が高くなるから我慢したいという方がいらっしゃいます。特に、ご高齢の方の場合、その傾向が高いようです。
しかし、熱中症になるリスクがある気温が高い日は、室内にいても熱中症の危険があるため、冷房や扇風機を積極的に使用するようにしましょう。熱中症になってしまっては、命の危険にもつながる事態です。特に独居で暮らされているご高齢の方には、使用を勧めるよう伝えるようにしましょう。
室内は常に28度を超えないような適切な温度を保つようにしましょう。ただし、冷房の設定温度を低くしすぎてしまうと、外出した際に気温差が大きく体の負担となりますので、注意しましょう。
2-3. 体調が悪いときは無理をしない・適宜休憩を
体調が悪いときや寝不足時は、気温がそれほど高くなくても熱中症になりやすいです。朝起きて、体調が悪いと感じた場合には、無理して外出せず、1日休むようにしましょう。
また、寝不足の際は仮眠をとったり、体調が悪く体のだるさを感じている場合には、適宜休憩を摂るようにしましょう。仕事場でも、我慢せずに上司や現場監督の方に伝えて休むことが大切です。熱中症になってしまったらそれ以上に迷惑をかけてしまう可能性があります。
2-4. 帽子・日傘、通気性の良い服など服装を工夫する
炎天下での日差しを避けるため、帽子・日傘は非常に有効です。帽子は、ずっとしていると蒸れるため、時々はずして、汗の蒸発を促すようにしましょう。マラソンなどスポーツをしている最中は帽子を好まない方もいますが、体力も奪われリスクが高まるため、できるだけ帽子は被ることをお勧めします。
また、通気性の良い服を着て、体から出る熱と汗をできるだけ早く逃すことも大切です。黒色系の素材の服は、熱を吸収しやすく、熱がこもりやすいため避けることをおすすめします。
2-5. こまめに冷却グッズを活用する
最近では、熱中症対策として使用できる冷却グッズも多く販売しています。気軽に購入できるため、ぜひご自身で、適切な冷却グッズを選び、活用していきましょう。
・ひんやりタオル
・冷えピタ
・ひんやり枕
・冷却スカーフ
・ひんやりマット
・冷却スプレー など
2-6. 熱中症の危険度をチェックし、暑さを避けましょう
熱中症の危険度を表す指標として、「暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)」というものがあります。これは、暑さを気温だけでは判断できないことから、複合的に 「①湿度」「 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境」「 ③気温」の3つを取り入れた指標となっています。
こちらの環境省熱中症予防情報サイトで、暑さ指数を確認することが可能です。
PC用:http://www.wbgt.env.go.jp/
モバイル用:http://www.wbgt.env.go.jp/kt
暑さ指数によって、危険(31度以上)、厳重警戒(28度〜31度)、警戒(25度〜28度)、注意(25度未満)※に分かれており、全国各地の熱中症の危険度を確認することが可能です。
こちらのチェックを行うことによって、危険度が高いときは、外出を控えたり、運動を中止する、休憩の頻度を多くするなどの判断を行うことが大切です。
<日常生活に関する指針>
危険(31度以上):高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。
厳重警戒(28度〜31度):外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。
警戒(25度〜28度):運動や激しい作業をする際は定期的に充分に休息を取り入れる。
注意(25度未満):一般に危険性は少ないが激しい運動や重労働時には発生する危険性がある。
3.熱中症かなと感じた場合の対処法
続いて、熱中症の症状が現れた場合の対処法を解説します。
3-1. 応急処置フロー

3-2, 涼しいところへの移動
熱中症が疑われるような場合には、まずは、風通しの良い木陰やクーラーが効いている室内など涼しいところに移動し、体を冷やすようにしましょう。自力で移動が困難な場合には、周りの方に助けを求めるようにしましょう。
3-3. 衣服をゆるめて、冷やす
衣服を脱がせ軽装にすることや、襟元や体を締め付けるようなベルトをつけている際にはゆるめるようにしましょう。通気性を良くして、体から出る熱と汗をできるだけ早く逃すことが大切です。
また、氷袋や冷えピタなど体を冷やせるものがあれば、首筋や両脇、大腿の付け根、足首など動脈(太い血管)が通っている部分を冷やすのが効果的です。うちわを使用したり、扇風機で冷やすことも有効です。
3-4. 水分・塩分を補給する
意識があり、自力で摂取できそうなときは、水分・塩分(スポーツドリンクや経口補水液がおすすめ)を飲むようにしましょう。
但し、受け答えが不十分で意識が曖昧だったり、意識がないときには、気道に飲み物が流れてしまう危険もあるため、無理に飲ませないようにし、救急隊の指示を待つようにしましょう。
3-5. 医療機関に搬送・受診する
・意識がない場合
・重度の熱中症症状が出ている場合
・自力で水分・摂取が取れない場合
・症状が改善しない場合
このような場合には、なるべく早く医療機関を受診して適切な治療を受けるようにしましょう。意識がない場合などは救急隊を要請することも必要です。速救急車が到着するまでの間には、前述で説明したような、涼しい場所への移動や体を冷やすなどの応急処置を行うことが大切になります。
4.おわりに
今回は、熱中症が起こりやすい環境や症状について解説するとともに、熱中症にならないための予防・対策法と熱中症になったときの対処法について説明しました。
特に小さなお子さんやご高齢の方では、より一層の注意が必要となりますが、環境や体質、そのときの体調次第で、屋外、屋内問わず、誰もが熱中症になりうる可能性があります。
日頃から調子が悪いときは無理をしないことや、天気予報等でチェックし、熱中症の危険が高い日は外出や運動を控えるなど、ご自身で管理することも大切です。独居で暮らされている方が身の回りにいるようであれば、声かけなど気にかけるようにしましょう。
夏は楽しい催し物が目白押しです。熱中症にならないようにしっかりと対策を行うようにしましょう。
参考
熱中症診療ガイドライン2015
熱中症環境保健マニュアル2014
熱中症予防情報サイト 環境省