目次
1.ヘルパンギーナとは?
ヘルパンギーナは毎年5月~9月にかけて流行する代表的な夏風邪ですが、どのように感染を引き起こすのでしょうか?詳しく見てみましょう。
1-1. ヘルパンギーナはウイルス性感染症
ヘルパンギーナは、主にコクサッキーウイルスA群と呼ばれるウイルスに感染することで発症します。コクサッキーウイルスは、人の中でしか増殖しないため、動物を介した感染は生じず、感染者からの飛沫感染や接触感染、糞口感染によって感染します。
①飛沫感染
飛沫感染とは、感染者の咳やくしゃみの飛沫に含まれたウイルスを近くにいる人が吸い込んでしまうことで感染することです。咳やくしゃみの飛沫は水分を多く含むため、遠くまでは飛ばず、飛散距離や半径2m以内であると言われています。このため、感染者が2m以内にいる場合は感染する危険があるのです。
②接触感染
接触感染とは、感染者から排出されたウイルスが付着したものを他者が触り、無意識に口や鼻に触れたときにウイルスを体内に取り込んでしまうものです。
家族に感染者がいる場合や、流行時期の公共交通機関などでは、ドアノブや手すり、つり革などにウイルスが付着している可能性があるので適切な感染対策が必要となります。
③糞口感染
糞口感染とは、便の中に含まれたウイルスが感染者の手や便座などに付着し、それによって生じる接触感染の一種です。ヘルパンギーナは症状が改善しても約一か月は便と共にウイルスを排出しますので、糞口感染を生じる可能性があり、症状がよくなった後も注意が必要なのです。
2.ヘルパンギーナの症状は?
続いて、ヘルパンギーナの症状について詳しくみていきましょう。
ヘルパンギーナはコクサッキーウイルスに感染後、2~4日の潜伏期間を経て、突然の発熱で発症します。熱は39~40度ほどの高熱となる場合が多く、次にのどの痛みが生じます。のどの痛みは非常に強く、のどが赤く腫れるため、時には溶連菌感染症と思われることもあります。
高熱と喉の痛みが生じると、次は口の中やのどの粘膜に1~2㎜ほどの小さな水疱が多数現れます。水疱は口の中に入った食べ物や飲み物などの刺激で簡単に破れ、粘膜に潰瘍やびらんを作ります。これらは非常に強い痛みを伴い、唾液を飲み込むのも困難になるケースも少なくありません。
発熱やのどの痛みは2~4日ほど続き、口の中やのどの水疱は徐々に回復して1週間も経てば痕を残さずに元通りに治るでしょう。
2-1. こんな症状が出たらご注意を!
ヘルパンギーナは高熱や非常に強い痛みを伴う水疱など重い症状が現れますが、通常は数日で後遺症を遺さずに回復します。しかし、中には入院治療が必要になるような重篤な症状が現れることもあるので注意が必要です。
次のような症状が出た時にはすぐに病院を受診するようにしましょう。
①脱水症状
ヘルパンギーナは口やのどに有痛性の水疱ができるため、水分をうまく飲めなくなることも少なくありません。特に乳児では哺乳量の減少が著しい場合もあります。
また、39~40度の高熱が数日間にわたって続くため、脱水症状になりやすい状態でもあるのです。
水分摂取量が極端に少なく、大泉門が陥没している、脈や呼吸が早いなどの症状は点滴などによる強制的な水分補給が必要なサインですので、注意しましょう。
②頭痛、嘔吐
コクサッキーウイルスは稀に無菌性髄膜炎を引き起こすことが知られています。発熱がいつまでも治まらず、頭痛や嘔吐がある場合は要注意です。髄膜炎のサインとして、首が硬くなって動きが悪くなる「項部硬直」がみられた場合には極めて緊急性が高い証拠ですが、無菌性髄膜炎では項部硬直が見られないことも多いとされています。
このため、ぐったりして元気がない、ボーっとしているなど、いつもと違う様子の時は注意しましょう。
③息がぜいぜいしている
ヘルパンギーナは重症化すると心筋炎を併発することがあります。稀なケースですが、心筋炎を発症すると、心不全を引き起こし呼吸困難やむくみなどの症状を引き起こします。発症のサインとしては、横になった時に息がゼイゼイと苦しくなることや唇や指先が冷たく紫色になるチアノーゼなどです。心筋炎は放置すると死に至ることもある重篤な病気ですので、心不全が疑われるサインが現れた場合には速やかに病院を受診するようにしましょう。
2-2. 大人は重症化しやすい?
ヘルパンギーナの90%以上は5歳以下の乳幼児が発症しますが、コクサッキーウイルスは一度感染しても免疫が作られないため、大人でも感染することがあります。特に、発症した子どもの看病をしていた親が感染するケースが多く、家庭内で感染が広がることも稀ではありません。
大人がヘルパンギーナに感染すると、一般的には乳幼児よりも重症化することが多いとされています。乳幼児では2~4日ほどで発熱は治まり、のどの痛みや水疱も一週間ほどで治ります。しかし、大人は症状が長引きやすく、乳幼児よりも重度な症状が引き起こされます。中には肺炎や重度な脱水症状を併発して入院治療が必要となるケースもありますので注意が必要です。
3.ヘルパンギーナの治療と対策
ヘルパンギーナはウイルス性の感染症のため、抗生物質が効かず、治療は脱水症の予防や解熱剤・鎮痛剤などによる対症療法を行うことしかできません。
しかし、脱水症を予防するためにもこまめな水分補給は重要であり、口やのどにできた水疱の痛みで水分摂取がままならない場合には、氷や冷たいシャーベットを舐める、のど越しのいい滑らかなお粥やスープを流し込むなどの対策が必要になります。
4.ヘルパンギーナと似た症状の感染症
ヘルパンギーナの三大徴候は、高熱・のどの痛み・口の中やのどの水疱、です。しかし、これらの症状が生じる感染症はヘルパンギーナだけではありません。
では、ヘルパンギーナの他にどのような感染症が同じような症状を引き起こすのでしょうか?見分け方を含めて詳しく見てみましょう。
4-1. ヘルペス
ヘルペスといえば、口唇に小さな水疱が現れるというイメージが強いですが、ヘルペスは口の中にも水疱を形成します。これは歯肉口内炎と呼ばれており、水疱は主に歯ぐきや舌にできますが、のどの奥にもできることがあり、非常に強い痛みを伴うのが特徴です。特に初めてヘルペスウイルスに感染したときには症状が強く現れ、発熱や倦怠感などを引き起こすこともあります。
ヘルパンギーナとの見分け方は、のどの痛みが軽度であることと、水疱が破れにくいという点です。
4-2. 手足口病
手足口病も夏風邪の一種であり、発熱と水疱を生じるのが特徴です。しかし、発熱の多くは38度台以下であり、ヘルパンギーナほど高熱にならないことがほとんどです。また、水疱は口の中だけでなく、手や足にも現れ、口の中の水疱は破れにくいのが見分けるポイントです。
5.まとめ
ヘルパンギーナは非常に重い症状が現れますが、数日で後遺症を遺さずに治ることがほとんどです。しかし、大人が感染した場合などには重症化することが知られているため、注意が必要です。
また、ヘルパンギーナと似た症状を生じる感染症もあるため、病院を受診して正確な診断を受けるようにしましょう。