【医師が高齢者の交通事故予防を解説】車や船の事故と高齢者の関係!?

近年、高齢者が関わる交通事故の報道をメディアで目にする機会が増えています。「認知症が事故の原因ではないか?」と報道されることも多く、運転免許証の返納など「認知症による交通事故予防策」が各所で実施されています。交通事故は、一般的には陸上交通機関「自動車」のイメージが強いですが、日本の食文化を支える漁業や物流など私たちの生活に関わる「船の事故」でも、「高齢者が関わる事故」が問題になっています。

高齢者が関わる陸と海の交通事故の現状と今後の予防策について、「医師免許、自動車免許、船舶免許」の3つの免許を有する立場からご説明したいと思います。
※この情報は、2018年2月時点のものです。

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1.日本における高齢化の進展の現状?

 日本では、急速に高齢化が進み、内閣府の調査では2015年10月1日現在、65歳以上の人口は3,459万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は27.3%と約4人に1人となっています。高齢化率は、総人口が減少し高齢者人口が増加することにより引き続き上昇し、2036年には33.3%と3人に1人となると推定されています。

1-1. 高齢者による交通事故の発生状況について

内閣府「交通安全白書平成29年版」によれば、平成28年(2016年)の道路交通事故発生件数は49万9,201件で、事故死者数は、3,904人で、昭和24年以来67年ぶりに4,000人を下回りました。

 

全年齢層で、人口10万人当たり死者数は減少傾向にあるものの、高齢者<65歳以上>人口自体が増加しているため、死者全体のうち高齢者の占める割合は上昇傾向で、平成28年は54.8%と過去最高となっており、さらに致死率(死者数÷死傷者数×100)も他の年齢層の約6倍高いという結果が出ています。約10年前と比べ、事故死者数自体が減少傾向にはあり、必ずしも増加している訳ではありません。

 

ただし今後の人口に占める高齢者数はさらに増加が見込まれるため、比例して交通事故及び死者数の増加につながることが危惧されています。

 

1-2. 高齢者の「船の事故」は多いのか?

 「海上保安庁」によれば、平成24年から28年までの5年間で発生した船の事故(船舶事故)は「10,876隻」でした。

 

提供:海上保安庁

 

全ての船舶事故のうち操船者(運転者)が65歳以上の割合は、約30%(3,240隻)でした。

「船」と言っても、「漁船」、「貨物船」、フェリーなどの「旅客船」、「タンカー」、ヨットやモーターボートなどの「プレジャーボート」、釣り船などの「遊漁船」など用途も大きさも異なります。

ここでは漁船事故を中心に見ていきましょう。

漁船事故「3123隻:65歳以上の事故45%」で、貨物船「1340隻: 65歳以上の事故15%」、プレジャーボート「4,720隻: 65歳以上の事故26%」などと比べても、漁船事故に占める65歳以上の割合は高く推移しています。

 

<漁船の事故>

提供:海上保安庁

 

<貨物船の事故>

 

提供:海上保安庁

 

事故の内容でも65歳以上では、他の船などとの「衝突」、燃料欠乏などの「運行阻害」、「乗揚げ」、「転覆」事故が多いという傾向があります。

「漁船」も「貨物船」も仕事として船に乗っている点は変わりありません。平成28年版水産白書によれば、漁業の場合、個人事業者など小規模経営が全体の約70%を占めています。

 

船の事故は複雑で、人が負傷する事故を見てみると、衝突などで船が損傷した際に人が負傷する場合(船舶事故による負傷)のほか、海中転落など船自体の事故が原因ではなく負傷等するものがあり、これは人身事故として整理されています。65歳以上の人身事故者数は全体の33%を占め、海中転落や病気が多い傾向があります。

 

私は、漁業従事者の高齢化に加え、定年を考えること無く仕事に従事できることや生活の為に仕事を続ける必要があることも、高齢者の漁船事故が多いことに関係しているのではないかと考えています。

 

2.「船」の操縦って?

「広いはずの海で、船が事故を起こす」と聞いてもイメージが湧きにくい方も多いでしょう。

何となく自由気ままに進んでいるように思いませんか?

 

実際に自動車やオートバイなどの運転と船の操縦にはどのような違いがあるでしょうか?

「自然環境」と「交通環境」に分けて説明しましょう。

 

「自然環境」

水に浮いている

水に浮き地面に付かないのが「船」なのは皆さんご存知でしょう。

「船」は、不安定な水面に浮き、絶えず風や波などの外力を受け動きます。そのため、操縦者(操船者)が意識してコースを定め、航行・停止、錨を下す、岸壁などに係留する作業を行う必要があります。

 

天候が変わり、風が強まったり、波が高くなってきた場合は、船の安全を確保するため、早めに帰港したり、避難できる安全な場所(港や島影など)まで、自力で進まなければならないのです。

 

気象や海象の影響が強い

水上は、波や風、うねり、潮の流れなどで絶えず水面が動き、「船」はこれらの影響を簡単に受け、「波間を漂う木の葉」という表現に近い環境にいます。

水面に障害物があるイメージは湧きにくいかもしれませんが、実際には漁のための網やブイ(浮き)、ゴミなど大小様々な物が漂ったり、暗礁(隠れた岩礁)なども存在しています。

 

映画『タイタニック(公開1997年,主演:レオナルド・ディカプリオ)』で、当時の最新技術を搭載し、決して沈まない「不沈船」と考えられていた豪華客船「タイタニック号」が、1912年4月北大西洋上、暗闇の中で氷山に衝突し、沈没する場面をご覧になった方もいるでしょう(映画は事実を基にしたフィクションで、事故の原因や経過は現在でもミステリーに包まれています)。タイタニック号の沈没では1,513名が犠牲となり、世界最悪の海難事故と呼ばれました。

船や岸壁からの転落や海で流されてしまう事故は日本全国で発生しています。

 

水面に浮かぶ「人間の頭部」は、サッカーボールと同じ位に小さく、波の間に隠れたり、太陽の反射があると、近い距離でも見つけにくい(発見が難しい)です。そのため「ライフジャケット」など目立ちやすく、浮力を確保できる用具を着用することが重要になってくるのです。

 

「交通環境」

道路も速度制限も無い

「海にも道はある」と言っても、信じてもらえないかもしれません。

 

実は交通量が多いなど一部の水域には、「航路」と呼ばれる「海の道路」があります。

飛行機など上空から海を見た時に、「タンカー」などの大きな船が一列に並んで進んでいる場面をイメージして頂くと分かりやすいかもしれません。とはいえ、水上には道路に引いてあるような車線は無いので、出港前に安全な海域を走るためのコースを自分自身で計画しなければなりません。

 

そして、それぞれの船は各々の目的地に向け様々な方向に向けて走るため、自分が走る際は常に周囲を見張る必要があります。また港の中や海峡などの交通量の多い一部の海域を除いては、基本的に道路のような速度制限も無いことから、海域や他の船の状況に応じて、安全な速度で走る必要があります。

 

信号や標識が少なく、自分の位置も分かりにくい

灯台などの信号や標識も水上(や陸上)に設置されていますが、数も少なく、陸地に近い場所が殆どです。

 

水上では目標物も少ないため、自分がどこに向かって進んでいるか分からなくなるという危険があります。陸から孤立しているため、非常事態や緊急事態が起きても、まずは自分達で対処せねばならず、「海上保安庁」などに救援を求める場合でも、携帯電話や無線など「通信手段の確保」が絶対に必要となります。

 

障害物が少ない水上でも、「自然環境」や「交通環境」、さらには「人的要因」などが関わることで、陸上と同じように事故が発生してしまうのです。

 

自由気ままに走っているように見える船ですが、「自分自身で考え、安全に行動しなければならない」ということがお分かりいただけたかと思います。

 

3.交通事故と「認知症」は関係ある?

高齢者による交通事故(陸及び海)が発生した場合、事故発生後の捜査などの過程で「認知症の投薬治療や受診歴」が判明することがあります。

高齢者による「道路の逆走や交通標識の見落とし、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故」が発生した際にも、「認知症の存在」が疑われます。

ただし、これらの事故は、(認知症ではない)若い人でも起こり得ることでもあり、「認知症」だけが原因と必ずしも言い切れない場合もあります。

 

平成28年における65歳以上の自動車運転免許保有者は、約2,338万人(運転免許統計平成28年版警察庁交通局運転免許課)で、約3.8~11.0%とされる「認知症」の有病率から、89万~257万人程度の「認知症」運転者が存在している可能性があります。

 

続いて、高齢者の「漁船事故」に目を向けてみましょう。

 

平成28年漁業就業者数「16万20人」のうち、65歳以上の就業者数6.0万人(水産白書)を同様にあてはめると、2,380~6,000人の漁業就業者に認知症が潜在しているとも言えます。これらの数字が多いのか少ないのか分かりにくいかもしれません。そこで、1人乗り漁船事故の状況を見てみましょう。

 

2人乗り以上の場合に比べ、1人乗り漁船事故は多く(平成28年228隻)発生し、うち65歳以上が139隻と過半数を超えています。

 

「認知症」の危険因子の最大要因は、加齢です。実際の事故発生件数よりも、「認知症」潜在者数の方が非常に高いと考えられ、今後「認知症」が関連する事故は増加し得るため、陸でも海でも高齢者の交通事故には注意が必要と言えるでしょう。

 

4.「認知症」は病名ではない??

「認知症」は、一般的には1つの病気と捉えられがちです。

 

実際には「アルツハイマー型(約60~70%)、血管性(15~20%)、前頭側頭型、レビー小体型(5~10%)」に大別されます。これら以外にも「慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症」なども「認知症」症状を起こすことがあり対策も様々です。

 

「認知症」は症状の名前であり、1つの病気の名前ではありません。

 

高齢者に多い「慢性硬膜下血腫」は、比較的軽度な頭部外傷が原因となり、頭蓋骨の内側で脳を包む硬膜と脳の表面の間に血液が徐々に溜まり(血腫)、脳を圧迫し、受傷直後ではなく時間が経過して発症する病気です。

 

頭のケガなどの後、数週間から2か月程度経過して発症することがあり、気が付かれにくい特徴があります。「慢性硬膜下血腫」は、「認知症」の中での割合は決して高くはないのですが、「脳外科手術」などで治療でき、今後も注意していく病気だと考えています。

 

5.”認知”とは何か?

「認知」という言葉は、よく耳にされると思いますが、実はその定義は分かり難いかもしれません。

 

 医学上の「認知」とは、『対象の知識を得るため、情報を積極的に収集し、それを知覚し、推理・判断・処理を加え、結果を記憶する過程』と定義されています。

 

例えば、新しい家電製品を買って、どうやって使うか、試行錯誤することを想像してみて下さい。『①説明書を見る②実物に触れる③使い方について、他人に相談する、情報を集める

④集めた情報から、使い方を推測する⑤正しい使い方を次回のために覚える。』

この一連の流れが「認知」です。

 

 

知覚・聴覚などからの刺激や注意能力は乳幼児期、幼児期、児童期にめざましく発展し、特に言語理解や記憶機能は青年期に頂点に達するとされています。

 

高齢になると、知覚段階での加齢変化(難聴、老眼、白内障)や情報処理速度の低下、注意の持続力の低下、短期記憶の効率の低下がみられる傾向があります。ただし、人間の叡智や知恵は年齢に伴って、高まっていくと考えられています。年齢により全ての機能が低下する訳ではありません。

6.高齢者が事故を起こしやすいワケ?

「高齢者は事故が多い」と言われますが、年齢を重ねることで以下の様な運転特性が現れる傾向があります。

 

・視力などが弱まり、周囲の状況に関する情報を得にくくなり、判断に適切さを欠くようになること。

・反射神経が鈍くなるなどで、とっさの対応が遅れること。

・体力の全体的な衰えから、運転操作が不適格(不適切)になったり、長時間にわたる運転継続が難しくなったりすること。

・運転が自分本位になり、交通環境を客観的に把握しにくくなること

加齢による認知機能の低下に、体力的な衰えが加わることで、事故に遭う可能性が高まると言えるでしょう。

 

7.高齢者の交通事故を減らすには?

陸上・海上を問わず、交通事故が発生した場合、車や船などの財産が損害を被るだけでなく、ケガや命を落とす危険性があります。被害者・加害者という当事者だけでなく、家族や関係者などにも深い悲しみを遺し、みな事故の犠牲者と言えます。

 

「事故が悪いことだから、発生させない・防ごう」という観点だけではなく、「事故に関わる1人1人の人生を守る」ために、事故を未然に防ぐ方策を考える必要があるでしょう。

 

「運転免許の返納」は事故防止の有効な手段ではありますが、「仕事や生活のために返納出来ない」という現実的な事情もあるでしょう。さらに「認知症」では、「自分が認知症である」認識が出来ないため、「免許の返納」という考えに至りにくい点にも注意をしなければなりません。

 実は高齢者の交通事故を減らすために、私達が出来ることがあります。

 

・「40代頃からの生活習慣病対策」

 高血圧や高脂血症、糖尿病といった「生活習慣病」が「認知症」の発生や促進に関わるとの研究報告があります。これらの治療が必要な場合は、きちんと医療機関を受診することが良いでしょう。

 

・「認知症発症予防に影響する食べ物を知ること」

「認知症」発症予防には、「大豆・大豆製品」、「野菜・果物」、「牛乳・乳製品」、「芋類」、「海藻類」、「卵」を多く摂取するようにし、「アルコール」は控えめが良いでしょう。

 

・「薬の飲み忘れを家族や仲間が気にかけること」

認知機能が低下すると、本来飲まなければいけない薬を飲み忘れることがあります。当事者自身はなかなか気付きにくいので、周囲が注意しなければなりません。

薬が家に大量に余っている様な場合には、かかりつけの医療機関や調剤薬局などに相談すると良いでしょう。

 

・「車の車庫入れ<船では、離着岸>が下手になることを見逃さない、シートベルト(ライフジャケット)の着用ミスを周囲が見逃さないこと」

 交通事故の統計は、警察や海上保安庁が把握している数字で、「自宅のガレージにぶつける」様な些細な事故は計上されていません。「今まで普通に出来ていたことが出来にくくなる」など、小さな変化やミスが大きな事故の下地となり得ることもあります。

8.おわりに

 高齢者が関わる交通事故は、高齢社会を生きる私達にとって避けて通ることは出来ない大きな問題です。今回は、陸上と海上交通という一見異なる環境で発生する事故においても、高齢者が関わることが多い現状をご紹介しました。当事者や家族に加え職場や地域の仲間、1人1人が高齢者の交通事故に向き合うことが事故の減少に不可欠であると考えます。

 気になることがあれば、かかりつけの医療機関や調剤薬局などに相談してみましょう。

 

参考資料

内閣府「交通安全白書 平成29年版」

海上保安庁「海難の現況と対策 平成28年版,平成27年版」

 

執筆
医師:倉田大輔
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